「今月を視る」 (「むすぶ」2011年5・6月号より)
2011-05-26


震災を利用した日米の「軍事演習」を許さない!

「被災地での自衛隊の活動を見ていると自衛隊の有難さを痛感する」「国家公務員賃金10%削減の対象に被災地であれほど献身的に活動している自衛隊まで適用するのはおかしい」。バラエティー番組や報道番組で軍隊にすぎない自衛隊が「サンダーバード」のごとく英雄視される。実際には災害救助を専門的に訓練されているわけではない自衛隊の災害救助能力の低さは全く語られない。

一方で、被災者の生活再建の先行きが全く見えない中で、現地派遣態勢を縮小し、本来業務=戦争訓練に戻すと言う。藁をもつかむ思いの被災者にとって、10万人もの自衛隊の「作業要員」としての救援活動が頼もしく見えたのは当然である。実際に、災害救援のための専門的な組織がない中で、自衛隊の活動がある程度有用であったことは否定できない。しかし、そのことは逆に、本来の「防衛任務」のために残った10万人もの自衛隊の存在への理解や支持を高めたわけではない。むしろ、現地からの「撤退」・態勢縮小という現実を通して矛盾が高まるのは必死である。今こそ、自衛隊は軍備を放棄し、「国際緊急援助隊」に改編すべきという主張を大胆に掲げるときだ。

さて、「震災救援に大活躍」の裏で自衛隊は何をしたか、「トモダチ作戦」と称して「救援」に駆けつけた米軍は何をしたか、その中で日米共同作戦がどう進行したのか、マスメディアがけっして語らない危険な動きを見逃してはならない。震災を利用した日米の軍事実働訓練はけっして許してはならない。

18000人を投入した米軍の「トモダチ作戦」は、「自衛隊・米軍の統合運用」と「民間空港・港湾の米軍使用」に大きく踏み込み、実態は「有事対応シミュレーション」ともいえる展開になった。

米揚陸艦トーテュガは陸上自衛隊の隊員273人、車両93両を北海道・苫小牧港から青森・大湊港まで運んだ。山形空港は米軍が資材を蓄える後方補給センターとしての使用を県知事が許可した。仙台空港には沖縄・嘉手納基地所属の353特殊部隊が先陣を切って到着。普天間基地所属の海兵隊ヘリ部隊も強襲揚陸艦エセックスで駆けつけた。一時孤立状態となった宮城県気仙沼市の離島・大島に揚陸艦で米海兵隊員300人が「上陸」。港のがれき撤去を行った。有事の際に想定している自衛隊と米軍の活動を調整する「日米共同調整所」が現地の仙台市・陸自仙台駐屯地、防衛省、東京・横田基地の在日米軍司令部の3ヶ所に設置された。仙台駐屯地には今回初めて陸海空の統合任務部隊(JTF東北)が置かれた。「オペレーションの性質は違うが、民間施設利用や上陸など実態的には朝鮮半島有事を想定した訓練ともなった」(外務省幹部)と認識されている。

自衛隊は、前述の米軍との「共同演習」以外に、大きく踏み込んだ事柄がある。3月17日の陸自へり放水で始まった「原発冷却作戦」で、自衛隊が警察・消防を指揮するよう菅首相が史上初めて文書で指示したのである。菅首相の指示書の宛先は、警察庁長官、総務省消防庁長官、防衛相、福島県知事、東電社長で、放水などの実施要領は「自衛隊が中心となり、調整のうえ決定」し、作業実施も「自衛隊が一元的に管理する」というものであった。陸幕幹部が「今回、書面で首相の指示が出たことが大きい。自民党政権ではできなかったことを、民主党政権は軽々とやっている」(毎日新聞)と言わせるほど大きな踏み込みを行った。

しかし、軍隊にすぎない自衛隊が原発の大量の放射性物質放出を食い止めるための有用な働きをできるわけではない。それにもかかわらず、自衛隊が原発事故を「収束させる戦い」の最前線にいるかのように見せかける福島第1原発周辺への自衛隊配置は、極めて政治的な演出である。米軍は、原発対応として、海兵隊専門部隊(CBIRF)約150人を日本に派遣したが、原発内はおろか、Jヴィレッジ(福島第1原発から約20キロの前線拠点・総合運動施設)にすら足を踏み入れなかった。危険なだけで何もすることができないことを認識しているからだ。


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[会報「むすぶ」より]

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