<読者つうしん> 猫の恩返し? 「動物保護優先住宅」
2023-10-23


禺画像]
東大阪市  尾田清一

今夏、命の危険を感じる猛暑の中、僕はエアコンのない長屋の一室で、黙々と段ボール箱に荷物を詰め、引越し準備をしていました。何度も暑さで手が止まり、扇風機の唸る音とべたつく熱風に急かされながらの作業でした。築60年越えのこの長屋は、戦後の住宅難の時代に建てられたもので、間口も間取りも小さく、今はほとんど空き家です。ここにかつて家族6人で暮らしていたこともあるのですが、今は僕ひとりと猫3匹(だんご三兄弟…僕はそう呼んでいる)だけの暮らしとなりました。
おふくろがエアコン嫌いで、室外機も朽ちた物干しにあり危険だったので、10数年前に撤去。僕は「エアコンなんかなくても、日本の夏くらい・・・」とずっと豪語してきたのですが、「地球沸騰」の今夏、それはもう通用しなくなっていました。僕自身もさることながら、だんご三兄弟が、連日室温35度を超える中で、寝ているのか、死んでいるのか、あるいは気を失っているのか、分からない状態に度々陥りました。でも、僕にしてやれることといえば、玄関の引き戸の前にコンパネを立てかけて影をつくること、裏の坪庭の庇にホースで水をかけることぐらい。このままではヤバイ! 危険! 何とかしなくては・・・

7月の末、そんな窮状を、昨年知り合った「むすぶ会」のMさんに話したところ、Mさんはふと思い出したように「ちょうどいい物件がある」って、一緒に地域猫の世話をしているFさんを紹介してくれました。
Fさんは美容師さん。Mさんのマンションの隣で美容室を経営しているのですが、副業にささやかな賃貸業もやっていて、名刺には「不動産賃貸 動物保護優先住宅」の肩書きが。もちろん「動物保護優先住宅」は、Fさんの造語です。なんでも犬や猫を保護し飼っている人たちが、そのためにアパートやマンションを借りにくいという事情に心を痛め、なんとかサポートしたいと今年から始めた事業とのこと。格安の中古物件を買取り、最小限のリフォームをして、そういう人たちに優先入居してもらうという賃貸業です。
とはいえ、気になるのは家賃。聞いてみると、2軒のうちまだ1軒空いていて「一般の方は月●万円ですが、保護動物を飼っておられる方は5000円引き。さらに複数匹飼っておられる方は、そこから1匹につき1000円引きします。」とのこと。僕の場合は、8000円引き。助かります。このせち辛い世の中に、こんな賃貸システムがあるなんて・・・ 命を大切にしたいという家主さんのやさしい情熱を感じました。
かくして、年金一人暮らしの僕が、猫3匹連れて、長屋からの脱出を決断! 8月初めのことでした。
そこから、冒頭に書いた猛暑と熱風の中での地獄の作業が、一カ月間続いたのです。もとより僕の荷物は少なかったのですが、何しろ戦後間もない親の代からの家財道具にガラクタ・・・ これまでずいぶん処分してきたつもりが、優柔不断を思い知らされました。
それでも何とか必死に頑張って、9月上旬、ついに引越し! 新居は長屋から直線距離で約5キロ、駅から徒歩6分の好立地。築40年のこじんまりした二階建てで、入居に先がけエアコンも設置しました。
この物件で一番気に入ったのは、2階の南北両側にベランダがあること。Mさんと見に来たときから、この両ベランダに鉄製のしっかりした脱出防止ネットを張ったら、三兄弟を室内から開放し、外の景色を眺めたり日光や風にあたったりさせてやれると、これまで叶わなかった夢を描いていました。

14年前のある夜、お風呂屋さんに行く途中、道にだんごが3つ落ちていると思ったら、仔猫3匹でした。野良と分かり連れ帰り、トム、カミン、ツレと名付けて家族にしました。そのころすでに我家には、事情で飼えなくなった人から引き取った先住猫が1匹いたし、決して余裕のある暮らしではなかったのですが、そのまま道路上の小さな命を見捨てることはできなかったのです。

続きを読む

[会報「むすぶ」より]

コメント(全0件)


記事を書く
powered by ASAHIネット